小字(こあざ)は土地の小区画の名称で、公称地名です。単に字(あざ)とも呼ばれ、筆(ひつ)の上位単位として近現代の土地台帳に記載されています。
通常は数筆の土地からなりますが、広さはきわめて多様です。奈良盆地では、条里地割が残るため、面積が古代の1町(近世以降の約1.2町、約109m四方)の小字が多く見られます。
近世以前の文献史料や古地図資料に現れる地名が、現在も小字名として残っている事例があります。そのため、小字は、これらの資料に記載された土地がどこにあるのか、現地比定をするための手がかりとなります。
また、小字名には「クボ」「フケ」などのように自然環境に由来するもの、「一ノ坪」「二ノ坪」などの条里制のもとでの呼称、藤原宮大極殿の遺構が見つかった小字の「大宮」、古代の幹線道路に由来する「大道」などのように、過去の景観の名残を留めたものがあります。これらは、その土地の景観を復原する際の重要な手がかりになります。
※ 筆・・・田畑・宅地などの一区画(広辞苑第6版)
奈良盆地では、条里の地番呼称が比較的多く小字名として残っています。
条里呼称は奈良県立橿原考古学研究所によって小字名や条里の地番が記載された古文書から復原されています(奈良県立橿原考古学研究所編『大和国条里復原図』1981年)。小字データベースにおいても、この条里呼称を小字に重ねて表示できるようにしました。
小字データベースの条里呼称データは、機械的に奈良盆地を1辺約109mの正方形に分けて作成されていますので、実際の地割とぴったり合わないところもあります。このような場所があるということは、一斉に同じ規格で条里地割が施工されたわけではなく、いくつかの工事区に分かれていたり、長い期間をかけて工事が行われたりした可能性が高いことを意味します。条里や坪の境界線と地図のずれの大きさが、場所によって異なることも確認して下さい。
奈良盆地の条里制については、木村芳一ほか編『奈良県史4 条里制』(名書出版、1987年)、奈良県立橿原考古学研究所編『大和国条里復原図』1981年を参考にしています。